2013年 女流王座戦第4局 駒桜イベント (2013.12.13) (ドクター尼子)

「先着80名が定員で、9時半開場。」
何時に関西将棋会館へ着けばいいのか、悩みどころです。
ゆっくり行って、「定員オーバーです。」と言われるのは論外ですしね。
さりとて、歩道に立って長く待つには、あまりに寒すぎます。
平日の雨模様を勘案して、”開場前ギリギリに到着”を選択して、岡山を出発しました。

予定通り、9時半前に、関西将棋会館前に到着しました。
そこに行列なし。
会館の1階にも人影なし。
静か過ぎます。
『まさか、もう、定員になっちゃったのか?!』
よぎる不安・・・。
おずおずと守衛さんに聞きました。
「あの、今日のイベントはどこで?」
「ああ。4階に上がって下さい。」
と、あっさり。
あっ、そうなの・・・。

エレベーターで4階へ上がると、ひぃ、ふぅ、みぃ。
『なあんだ、まだ、10人来ていないじゃないですか。』
受付も始まっていないようです。
ようやく、寒さと不安で固まっていた顔がゆるみました。
徐々にお客さんは増えて、狭いホールに列ができてきました。
いつになく、女性ファンが多いように思います。
駒桜イベントと言えば、男性が圧倒的なのですが。
これは、山崎先生効果なのでしょうか?

やがて受付が始まりました。
入場料500円(女性か駒桜会員)は、安いですね。
そして、多目的ホールに入ると、意外に狭いです。
定員80名に対して、席が30席しかありません。
机があるのはありがたいのですが、30では少なすぎますね。
午前中にある3名の棋士の指導対局が終わったら、しきりが外されるのでしょう。
それでも50席くらいでしょう。
平日なので、あまり集客を期待していなかったのかも。
そんなことを考えながら、そそくさと最前列の右端に陣取ります。

イベントでのおなじみさんからも声をかけられました。
「おっ、まさか、今日来られているとは。」
あはは。
滅多に使えない有給休暇を取ってみました。
当直も、先輩に代わってもらいました。

向かいのローソンで、お茶とおにぎりを買うために下りました。
と、エレベーターが3階で止まります。
扉が開くと、かわいらしい女の子が立っていました。
『あっ、加藤さん!』
対局15分前。
1階の自販機に行くのでしょう。
「おはようございます。」
挨拶は交わしましたが、実は、私は里見ファン。
『頑張ってください、と言うわけにはいかんわなぁ・・・。』
短い沈黙の後、1階に着きました。
と、加藤王座は、僕が下りるまで、入り口を開けて、待って下さっています。
いやいや、一介の将棋ファンに、そこまでして下さるとは!
『10代でこの気配りは、素晴らしい!!』と、大いに感じ入りました。

出演棋士は、立会いの井上九段、山崎先生、村田女流、長谷川女流の4名だけ。
プログラムを見ると、午前中は、山崎先生以外の3先生は、指導対局です。
サイン会だけの山崎先生が、終わり次第、ひとりでの大盤解説になります。

5階の対局開始に合わせて、4階でも開会式です。
その頃には、40人以上のお客様に増えていました。
立会いの井上九段を除く3棋士が、拍手の中、入場します。
いつものように、爽やかな山崎先生。
紺のスーツに、明るいピンクのネクタイ姿ですね。
開会式は簡単に終わり、女流のおふたりは、パーテーションの向こうの指導対局場へすぐに移動です。
サイン会まで時間のある山崎先生に、最初の解説依頼がありました。

「いや、解説と言いましても、まだ、始まったばかりで・・・」
と、苦笑いの山崎先生です。
戦型は、後手の里見挑戦者のごきげん中飛車。
対する加藤女流王座は、『丸山ワクチン』と呼ばれる角を交換する指し方で対抗します。
「最近は、急戦で戦うことが多いのですが、じっくりと指そうということでしょうね。」

ここから、ミニ将棋講座が始まります。
山崎先生は、序盤の一手一手の意味を、初級者でも分かるように解説をされるのが特徴でしょう。
「先手は、美濃囲いから銀冠に、後手は、美濃囲いに組むことを目標にします。」
お客さんからも、いい質問が飛んできました。
「先手から角交換すると、手損ではないですか?」
「はい、そのとおりですね。
 ただ、(88に)角が居ると、王様の行きたい場所なので、(77に)一手かけて動かさないといけません。
 だから、問題ないわけですね。」
「それから、ここ(77)に角がいると、角の頭を狙われますから、交換した方がいいんです。」

後手が、55歩となかなか行けない理由も、お客さんと一緒に考えます。
「これを今突くと、困ったことになりませんか?」
「65角ですか。」
「そうですね。(43と83の)両方の角成りを防ぐことができません。
 ですから、後手の王様が72に行くまで(83を守る)、先手は、5筋を受けなくても大丈夫なんです。」

少し昔話になります。
「先手は、48銀とすることが多いのですが、39に置いたまま駒組みをした棋士が居ました。
 王様を68、77、88と移動したんです。
 さあ、これを初めて指した人は誰でしょう?」
「他の人のしないことをするといえば、佐藤(康光)さんですか?」
と客席。
「いや、違います。
 才能はあるけど、佐藤さんほどの才能はない人です。」
「ああ、分かった。山崎先生。」
「そう、正解です。」
序盤の解説しにくい所を、ひとりでも上手に進行される山崎先生です。

ややあって、山崎先生もサイン会へ。
大盤の前には、誰もいなくなりました。
僕も、お金を払って、サイン会へ。
山崎先生は、あまり多くの色紙を出されないので、思ったより手に入れるのが大変です。
「いやあ、字が下手なので、あまり書きたくないんです。」
と言われますが、悪くはないですよ。

『独往』
ー自分の信じる道をひとすじに進むこと。
をふたりの方に書かれていました。
低段位の頃から、よく書かれている言葉ですね。
「何にしましょうか?」
「敢為でお願いします。」
『敢為』
ー物事を困難に屈しないでやり通すこと。
居玉で、金銀が出て行って、位を取る山崎将棋に、なかなかに合う言葉だと思っています。

この後、山崎先生に大ピンチが!
「優しいの”ゆう”の字をお願いします。」
自分の名前の一字を書いて欲しいと願う青年でした。
遠目に見ていても、なかなか終わりません。
よく見ると、山崎先生の足元に、色紙が2枚置いてあります。
近くに寄ってみると、
「いや、もう一枚。もう一枚だけ書かせて下さい。」
と頼んでいる山崎先生です。
「普段書かない文字を頼まれると、実力が出ちゃうんですよ。」
「うーん、どうもバランスがよくないなぁ。」
四枚目を書く山崎先生。
「これなら、何とか。中では一番ましでしょう。」
やっと、落款を押して渡せた山崎先生でした。

「書き直してはいけませんと、(書道の)先生には言われるんですけどね。
 一枚一枚が作品なんです!って言われます。」
「じゃあ、これ(三枚目)に、名前を書かないんですか?」
「えっ、これにですか・・・?!」
山崎先生、困っちゃった。
そこへ追い打ちが来ました。
「よかったら、それを下さい。」
最初にサイン会に並んだ女性ファンさんです。
「えっ!?」
山崎先生、女性とお子様には優しいですからねぇ。
「うーん、これは、世に出せない・・・。」
「お部屋に飾っておくだけにしますから。」
女性ファンさんも、ここぞとお願いオーラ。
『八段』まで書いて、手が止まった山崎先生。
やおら裏返して、『山崎隆之』と揮毫されました。
「これが精一杯です。」
表にかえして、落款を押します。
「あれ、これを押すと、僕だとばれちゃうかな?」
なにはともあれ、珍品は女性ファンさんの手に。
とてもとても感謝されていました。

「先生。こっち(二枚目)は?」
「それは、さすがにダメです!」
うん、確かに、これは、世に出せませんね。
それらの色紙は、職員さんの手に渡り、処分されることになりました。

サイン会が終わると、再び、山崎先生ひとりで大盤解説です。

△55歩と銀の行先を聞いた局面では、
「これは、一目▲67銀と引きますね。
 じっくりと駒組みをしていく展開になります。
 (丸山ワクチンでは、)手詰まりになることが多いのです。
 特に、後手は駒組み負けをしないようにしなければいけません。」
先手の方が進展性が高く、後手は動かせる駒が少ないことを、てきぱきと駒を動かして、説明されます。
少し専門的な解説が続きます。
「第3局も長かったですが、今日も長くなりそうですね。」

ところが、実戦は、何と▲65銀。
「ええっ!これは・・・。
 全然当たりませんね。」
まったく解説されなかった手が指されました。
「皆さん、次の一手は、僕に期待しないで下さいね。」
会場の笑いを誘います。
山崎先生の候補手が外れるのは、ファンの間では有名なのです。
でも、それは、山崎先生にしか見えない手があるということの裏返しでもあるのですが。

「午後からは、井上先生がいらっしゃいますから、大丈夫でしょう。
 井上先生はですね、関西の棋士の中で・・・、10番目ぐらいの先生ですから。」
パーテーションのすぐ向こうで、指導対局中の井上九段に聞こえるように、わざと言う山崎先生です。
「それは、トップ10ということでしょうか?」
指導対局が終わって、大盤の傍に来ていた村田女流がフォローを入れました。
その時、パーテーションの向こうから、
「おーい、5番くらいに言うといてや〜。」
と井上九段の大きな声がして、会場中大笑いでした。

「いや、しかし、この後の手が見えませんね。」
と山崎先生。
△53銀上と里見挑戦者が指すと、
「ああ、これは、好手ですね。」
△56歩▲同歩に△39角と打たれる手が、厳し過ぎます。
△53銀引ならば、▲66角成に△77角(馬が動けば、22の飛車が素抜き)とできるのですが、44に銀がいては、その手が利きません。
さらに、昼食休憩目前に指された▲45歩にも、
「これで何をしたいのか、僕には分かりません。
 65に出た銀を助けないといけないのですが、それもどうするのか見えません。」
穏やかに収まりそうだった戦況が、昼食休憩を前に、激しいことになってきました。

「何か質問があるでしょうか?」
昼食休憩を前に、何気に会場へ投げかけた一言でした。
そこへ、想定外の質問が飛んで来ました。
「都成三段への祝辞の中で、山崎先生は、”心を固める”という言葉を使われました。
 その意味を教えて下さい。」
明らかに驚いた表情の山崎先生。
「どうしてそれをご存じなんでしょうか?」
「インターネットで読みました。」
うーん、ネットは油断なりませんね、山崎先生。
にぎやかだった会場内が、しんとなりました。
「こういう雰囲気は、苦手なのですが・・・。」
苦笑いの山崎先生です。

「どういえば良いでしょうか。
 たとえば、奨励会で、負けた時にため息をつく人がいます。
 また、仲間と飲みに行きます。
 確かに、それで癒されます。
 でも、時によっては、やせ我慢しなくちゃいけません。
 自分の弱味を見せないようにすることは必要だと思います。」
「これを言うと、自分に跳ね返ってくるのでと、祝辞の時にも言ったのですが・・・。
 ある新四段が、昇段した時に、『世界一勉強した』と書いていました。
 もちろん、世界一勉強できているわけではないでしょう。
 それでも、世界一やったと思い込めるよう、(都成三段に)半年間、ひとつひとつを積み上げて、将棋に打ち込んでというような・・・。」
一生懸命、自分の気持ちを伝えようとする山崎先生です。

と、ふいに、村田女流の方を向いて、
「村田さん、『心を固める』って、どういう意味なんでしょうか?」
びっくりしたのは、村田女流です。
「それは、山崎先生の言葉じゃないですかぁ。」
「いや、だから、村田さんは、どういう意味だと思います?」
「それは、『芯をしっかりと持って、ぶれるな!』という意味ですよね。」
「あ、それいいですね。今度から、そう言おう。」
「もう。先生のお話は、そういうことでしょう。」
まじめな話には照れてしまう山崎先生。
最後は、笑いにしてしまいました。
でも、まじめなお話も、よく似合いますよ。

午後一番の山崎先生は、指導対局。
『当たれ、当たれ。』
と祈るも、空しく外れました。
なれば、大盤解説会と次の一手にかけるしかありません。

3回の予定の次の一手。
景品は、両対局者の色紙、加藤女流王座の一期目の記念扇子、棋書数冊。
棋書の中には、羽生の頭脳全10巻がありました。
「この羽生の頭脳は、はっきり言って”在庫処理”やね。」
井上九段が笑わせます。
最初の次の一手は、▲86角に対する後手の手になりました。
「これは、△52金と上がります。9割方、間違いないでしょう。」
自信たっぷりの井上九段です。
▲65銀が問題で、後手が指し易いという解説でした。
「△31角と打つ手もありそうですが、働かないかもしれませんからね。」
ということで、第1回は、△52金で鉄板ということになりました。
もちろん、僕も「52金」のりです。

さあ、休憩が終わり、ゲストの谷川会長が登場です。
谷川会長への拍手は、いつもすごいです。
さすがにスーパースターは違います。
山崎先生も、こうなってほしいと思います。
その谷川会長を、弟弟子の井上九段がいじります。
谷川会長、前日の順位戦で、痛い星を落としていました。
「(久保九段に)花を持たせたんでしょう?」
「そんな余裕はありません。」
「まあ、年明けの3局が本番だと思うとんでしょう。」
「もう、トーナメントと一緒です。」
「3連勝して(残留決定)。ねっ。」
関西らしいノリに谷川会長ものって、会場に笑いをもたらします。

さて、次の一手ですが、谷川会長の解説ですと、雲行きが怪しいです。
「△31角と打たないと、ダメなんじゃないですか。」
「いや、私も31角がいいと思うとんですわ。」
おっと、井上九段、いきなりの裏切りです。
「集計は、どうなってますか?」
メモを受け取った井上九段。
「えっと、52金が30人、31角が5人。あかんわ。」
9筋を絡めた攻めが、意外とうるさくて、形勢も互角とのことでした。
中には、後手の里見二冠が悪くなる変化も出て来ます。

そして、40分を超える長考の末に、△31角は指されました。
「まあ、この5人は、全員当選ということで、良かったですね。」
そういう気分にさせてしまうところが、井上九段の持ち味です。

景品も残ったので、早速、第2問を探します。
37手目の里見二冠の考慮中、二回目の次の一手になりました。
「ここは、△64歩から銀を取り合って、最後は飛車と角の取り合いになります。
 この変化は、後手が良いと思います。」
というのが、お二人の結論。
「変かもしれませんが、」
と、谷川会長が、△33桂を示します。
「何もさせませんよという手で、▲37桂には△36銀。
 これなら、銀の取り合いにもなりませんし、先手の飛車も捌けません。」
ということで、その他を含めての三択です。
僕は、「△64歩」のりです。

今回は、64歩、33桂、その他に10数名ずつ。
「いや、見事に割れましたね。」
上機嫌の井上九段です。
そこへ、指導対局を終えた山崎先生が合流します。
「どうなっていますか?」
解説を見ていなかった山崎先生、33桂を見るや、
「こんな手はありませんよ。」
と、一刀両断に切り捨てます。
「何でや?!」
と、井上九段。
「一目、こうです。」
▲75歩。
「えっ?!あっ、そうか、そうか。」
見ている僕らには分かりませんが、そこはトッププロ同士。
「これが見えないんですか?」
「そう言いなや。盲点になってたんやがな。」
笑いを交えながら、変化手順が、どんどん並びます。
「▲35歩△同歩が入ると、桂馬の頭(34の地点)が後手の弱点になります。
 跳ねさえしなければ、何ともないわけですから。」
なるほど。
▲34歩△同銀となると、53の銀がいなくなったとたん、▲44飛が切り札にもなります。
さらに、65歩、74歩、95歩などを絡めると、玉頭攻めが厳しくなります。
後手、投了かという局面まで現れます。
「これは、後手がおかしくしたんじゃないでしょうか。」
山崎先生が断言しましたが、次の一手は、33桂でした。
里見ファンとしては、つらい一手でした。

さて、井上九段と山崎先生と言えば、ぼやきといじりです。
「山崎君は、こっち持ちやろ。」
と、井上九段が守りの薄い後手陣を指します。
「いやいや。僕は、こっちの方が好きです。」
と、先手陣を指す山崎先生。
「何言うてんねん。君なんか、」
と、82の玉を51へ移して、
「こんな居玉で、金銀を前に出して、勝ってるがな。」
「お世話になっています。」
「お世話って、勝ち星か?」
対井上九段、13戦して11勝ですから。
「あっ、でも、痛いところで先生には負けてるからな。」
順位戦での2敗は、確かに痛い負けでした。
昇級戦線に残れなかったし・・・。

「若手にも勝ってるやんか。
 最近も、これで糸谷君を言わしとったな。」
「でも、その前には、豊島君に言わされました。
 最近は、頭を下げる(=投了)することが多くなって。」
「森一門は、よう勝ってるなぁ。
 糸谷君と澤田君、大石君の(勝率)7割コンビ。」
「でも、一門では、5割ですよ。」
「何でや。」
「長兄のMさん、それから、Aさんに、僕が5割でしょ。
 それから、K君、T君ですよ。
 5割です。」
「あっ、千田君がおるがな。彼も勝率7割。」
「じゃあ、5割5分。」
「師匠を入れたら?」
「やっぱり5割。
 って、そんなことを言わさないで下さいよ。」
会場、大爆笑です。

「井上門下も勝ちまくっているじゃないですか。」
「そうか。」
「菅井君、船江君に、稲葉聡(さとし)。」
「それは、兄貴の方や。稲葉陽(あきら)。」
「で、勝率7割。」
「師匠(=自分)を入れたら、5割5分やな。」
おかしい・・・。
まるで、台本でもありそうなやりとりです。

最後の次の一手は、47手目の加藤女流王座の手。
景品の中に、新聞解説の野月七段の揮毫付きの著書が増えました。
お客様から、歓迎の拍手。
「ここは、▲85銀と引くでしょう。他には?」
と井上九段。
「そうですね。加藤さんの棋風は、ガンガン攻めると聞いていますから、」
と、山崎先生は歩を持って、
「▲34歩ですかね。」
さらさらと、それぞれの変化手順が並びます。
「では、Aを85銀、Bを34歩としましょう。Cがその他。」
こういう時は、ダメでも(笑)山崎先生にのることにしています。
『34歩のBだ。』と思っていると、
「僕は、85銀の方で。」
おっと、固い方を取りましたね、山崎先生。
「じゃ、私は、棋風どおりの34歩で。」
と、井上九段。
「後は、どんな手でも、その他のCです。」

この一瞬のやりとりで、僕の頭の中が混乱しちゃいました。
『85歩』
と書いて投票しちゃったんです。
あちゃ〜、無効票・・・。
折角、山崎先生が正解手順に導いてくださったのに。

当選者発表に合わせて、野月七段の登場です。
めったに会う機会がないので、会場からはどよめきも起きました。
井上九段が去り、野月七段と山崎先生の解説になります。
野月七段、自分の携帯を見ながら、指し手を確認します。
「さすがにモバイル担当理事ですね。
 モニターを見ずに、携帯中継を使われています。」
「これは、いいですよ。携帯中継。僕もやっています。」
山崎先生、率先して携帯中継アプリの宣伝をしています。
大人ですね。
「△24飛までは必然。それから、▲95歩を指しましたか。」
この変化は、かなり後手に厳しい展開になります。
△同歩▲同香△同香▲同角で、これはかなり難解との評判でした。

しかし、△同歩に▲93歩。
この辺りから、解説者と対局者の読み筋が一致しません。
「あれ、こう指しますか。」
と、驚く野月七段。
「えっ、待って下さいよ。僕が指し手を当てますから。」
と、自信あり気な山崎先生。
55手目▲37桂を当てに行きます。
しかし、山崎先生の目線は盤面の左にあります。
当然、当たりませんよね。
「こうでしょう?」
「違います。」
「こうかな。」
「違います。」
「おかしいなあ。」
そして、ついに出ました!
「今度は当てます。当たらなかったら、加藤さんを諦めます。」
しかし、結果は、
「違います。」
「じゃあ、加藤さんを諦めます。」
「そんなに簡単に諦めていいんですか?」
”諦めます”ネタまで披露して、大サービスの山崎先生でした。

正解の指し手を聞いて、
「ええ、そっち(25)の歩を取りに行きますか!?」
驚きの山崎先生ですが、素人目にも、後手の飛車や桂を捌かせるので、無茶な気が。
また、後手が良くなったようです。
新聞解説の野月七段は、この辺りで仕事に戻らなくてはなりません。
「ここからの両対局者の表情を、解説者は見なくちゃいけませんよね。」
気の利いた一言で、野月七段を送られた山崎先生です。

山崎先生は、休息もなく、次は、ゲストの畠山鎮七段と解説です。
畠山七段も、携帯を見ながらの手順確認です。
「さすが、関西のモバイル担当ですね。」
「スマホなら、もっと見栄えがいいんですけど、私はガラケーですから。」
「500円ほどで、たくさんの将棋が見られて、お得ですよね。」
「そうですよ。
 あっ、間違えて、三浦vs永瀬を押しちゃった。」
「何やっているんですか。(笑)」
「室谷vs清水の中継も心惹かれますけどね。」
「あっ、僕も気になるかも。」
軽妙なおしゃべりで、しっかりアプリの宣伝をされました。

「66手目で”控え室の検討を打ち切った”とコメントされましたけど、それは違います。
 下の階の棋士室で、若手と検討をしていたので、控え室に棋士が居なかっただけです。」
と、畠山七段が裏話。
「ただ、ここでは、先に74桂と打てば、投了級と言っていましたね。」
一目△45歩と推奨していた山崎先生としては、ちょっとしゃくの種でしょうか。
「誰の意見でしたか?」
「千田君だったかな。」
優秀な弟弟子の名前が出ました。
「いやあ、先生が(奨励会幹事の時に)若手を強くしたから、困っちゃいますよ。」
「いやいや、私も、実に困っているのよ。」
マジで顔を歪める畠山七段です。
畠山先生は、弟子の斉藤五段に恩返しされています。
山崎先生も、リーグ入りの大事なところで、弟弟子の大石六段に食われています。
「半分くらいは、畠山先生の責任ですからね。」
会場に笑いを誘います。
関西風のぼやきと自虐が戻って来ました。

おふたりの解説を聞き続けていたかったのですが・・・。
見ると、井上九段のサイン会が始まっていました。
大盤解説会が盛り上がっているので、告知なしです。
危うく、買い損ねるところでした。
こそっと、そちらへ移動しました。

「いつもお越しいただき、ありがとうございます。」
優しい笑顔と一介のファンにも丁重なお言葉で。
イベントの和やかな雰囲気作りに、欠かせない先生です。
「さて、何を揮毫しましょうかねぇ。
 緊張しますね、目の前でお書きするのは。」
一字一字、丁寧に書いて行かれます。
こちらも、つられて、息を止めて見ていたり。

その間にも、畠山七段と山崎先生の会話が聞こえてきます。
「この手は、誰が言ったと思いますか?」
「誰って言われても。」
「では、ヒント。
 A.糸谷君 B.西川君 C.千田君。」
「そうですね。
 誰が言ってもおかしくないですが、糸谷君ではない。」
「残念。正解は、糸谷君でした。」
「ええ〜。
 僕は、西川君だと思ったんですけど。」
「外れです。」
どんな指し手かは見えませんが、楽しそうです。

色紙をいただいて、また、こそっと最前列の席へ戻ります。
やがて、畠山七段の出番も終了です。
「えっと、長谷川さん、指導、終わりました?」
会場の後ろ側の長谷川女流に声がかかりました。
「はい。終わりました。」
「じゃ、解説に来てくれますか。」

山崎先生と長谷川女流のツーショット。
「急に、ほんわかした雰囲気になりましたね。」
「はい。よろしくお願いします。」
長谷川女流相手では、いじりにくいかなと思いましたが・・・。
「長谷川さんなら、次はどう指しますか?」
「えっ、そうですね・・・。」
「10秒、9、8、」
「ええっ、そんな・・・。」
「3、2、1.」
「じゃあ、ここです。」
「うーん、時間に追われましたね。」
「えっ?」
「こうされたら?負けますよ。」
「ああ、やり直していいですか?」
「10秒・・・。」
長谷川女流も、しっかりとついて来て、なかなかに面白いです。

そうこうしているうちに、局面は終局に向かいます。
加藤女流王座が勝負所を逃し、最後の猛攻をかけますが、1枚足りない展開です。
「間違えないように逃げて下さい。」
大盤の前では、長谷川女流が、プレッシャーをかけられています。
しかし、長谷川女流も、もう間違えません。
そして、ついに投了の時が来ました。

「どうしても届きませんね。」
終局図を山崎先生が、簡単に解説されます。
「素晴らしい熱戦でした。
 というところで、本日の解説会を終わります。
 皆さん、ありがとうございました。」

会場は、対局者が来てくれることを望んでいる雰囲気です。
すぐに立ち上がる人はいません。
しかし、女流王座が決まった決着局。
負けた方に負担が大きいので、普通は対局者が来ることはあり得ません。

会場の雰囲気を察した山崎先生。
マイクを外して、
「対局者が来ることはありませんよね。」
と、職員に確認しました。
「聞いてきます。」
この職員さんの反応は、山崎先生の予想外。
「ありません。」
と答えてほしかったのが、分かります。

やがて、
「来て下さるそうです。」
と、職員さん。
大いに盛り上がる会場ですが、山崎先生は申し訳なさそう。
大きな拍手に迎えられて、加藤元王座と里見三冠が入場されました。
やはり、加藤さんの目の周りには、赤くなっています。
ファンへサービスしなくてはという気持ちの強さに、感動しました。

「立会いの井上先生は?」
救いを求めたそうな(?)山崎先生。
「下りてこられないそうです。」
職員さんのつれないお返事。
山崎先生が、簡単に、勝負どころの読みなどを聞いていかれます。
主に加藤さんがしゃべり、里見三冠は、見守っている感じです。
「では、最後に、ファンの皆さんに、一言ずつ、お願いします。」
山崎先生も、加藤さんには酷かなと思われたことでしょう。
しかし、出てきた以上は、仕方ありません。
加藤さん、
「悔しい戦いでした。」
と話したところでは、涙がこぼれそうです。
そこを何とか我慢して・・・。
話が終わると、会場からも万雷の拍手でした。

イベントが終了して、山崎先生を待ちます。
ファンの皆様の挨拶や激励に、丁寧に応対されていました。
会場の人影もまばらになった頃に、お話を伺いにすり寄ります。

「加藤さんには、気の毒なことをしてしまいました。」
開口一番、反省の弁。
「僕が余計なひと言を言ったばかりに・・・。」
「決着局は、負けた方に負担が大きいので、出てこないものなんですよ。
 分かっていたんですけどね。」
「でも、ファンサービスとはいえ、よく来てくださいましたよね。」
「そうなんですよ。加藤さんって、すごくいい人なんです。」
朝のエレベーターでの出来事をお話ししました。
「そういういい子なんです。
 しかも、高校生なのにしっかりしているんです。
第一期の就位式での挨拶は、あまりに立派だったので、途中からあわててビデオを回したらしいです。」
今日の姿を見て、応援したくなりました。
「加藤さんを褒めると、その分、自分に返って来ちゃいますけどね。」
そうですよ、山崎先生。
来期は、”八段”として、堂々たる姿を見せて下さいね。

思った以上に山崎先生を堪能できたイベントでした。
帰り道、カバンの中には、山崎先生と野月七段の本と将棋カレンダーが入っています。
2014年のカレンダーは、3月に山崎先生のお姿を拝めますからね。
将棋カレンダーを買うのは、いつ以来でしょうか・・・?
毎年、必ずメンバーに入れるような山崎先生の活躍を期待しつつ、福島駅へと向かいました。

(完)

将棋連盟HPイベントレポはコチラをどうぞ。