2010年 JT将棋日本シリーズ 静岡大会 (2010.8.28) (ドクター尼子)(写真:しいのみ&たいがー)

岡山大会の後、『静岡は遠すぎる。』と思い、行きたい気持ちを抑えていました。
でも、8月になると、心は静岡へ行ってしまいましたね。
当日も、11時前に会場へ着いてしまう入れ込みようでした。


「いいんですか?並ぶのは12時半頃からですよ。」
係の方が驚いていました。
「はい、大丈夫です。」
一番乗りが、たこやきメートの心意気ってやつですよ(笑)
静岡駅で買ったおにぎりを頬張りながら、待ちます。
3番目に並ばれた方が、女性でした。
ひとりというのも珍しいし、『もしかして』と思い、声をかけてみると、「山崎さんを見に来たんです。」と嬉しいお返事でした。
千葉県からいらっしゃったそうです。
お子様が羽生さんのファンで、王座戦第3局は、天童まで見に行かれたとか!
同じ山崎先生ファンということで、話も弾みました。

しかし、不思議なのは、12時前になっても列が一桁なのです。
「東京なら、早く行って並ぶのが当たり前ですが。」
「いや、岡山や高松でも、この時間までに20人や30人は並びますよ。」
県民性なのでしょうか?
12時過ぎて、ようやく10人とは!
その中に、森一門で見かけた女性では?という方がいらっしゃったのですが、キャップをかぶったラフなお姿だったので、自信が持てず声をかけられませんでした。
後で、橙さんとわかりました。
そして、12時半ぐらいになったら、どっと増えて来ました。
そうそう、これくらい並んでくれないと、山崎先生の人気がないんじゃないかと、心配になるじゃないですか(笑)

しいのみさんたちは、1時半前にようやく到着。
ずいぶんと離れた席になるなぁ、と思っていたのですが・・・。
入場すると、前の列に空席をつくって座ったいかれるじゃないですか。
「しいのみさん、最前列の席が空いていますよ。」
しいのみさんとは隣同士に。たいがーさんとひーちゃんさんも3列目に陣取ることができました。
この鷹揚さも県民性なのでしょうか?

さあ、応援の準備完了です! 

小学生大会の決勝は、低学年の部では、女の子が快勝でした。
高学年の部は、大人顔負けの熱戦で、小学生名人戦で準優勝した子が勝ちました。
表彰式の余韻の中、休む間もなく、プロ公式戦が始まります。

まず、谷川JT杯覇者。そして、我らが山崎先生の登場。
対戦相手の印象や今日の意気込みを、司会者の女性が聞いていきます。
生真面目に答える谷川九段に対しての山崎先生。


”対戦者の印象は?”
「いやあ、僕とは育ちが違うなぁと思います。」
意味不明ながら、場内の笑いを誘います。
”今日の意気込みは?”
「当たって砕けるナ、と言う感じですね。」
と、さらに笑いを取りました。
この終助詞の”ナ”は、否定なのでしょうか?
それとも、詠嘆なのでしょうか?
まあ、後者なんでしょうねぇ(笑)

そのおちゃめな山崎先生の雰囲気が、盤に向かうと一変します。
『豹変の貴公子』
鋭い目、真一文字に固く結ばれた唇が、この一戦に賭ける気持ちを表しています。


さらに、先手の山崎先生は、対局開始から数秒、盤を見つめたまま、気合を高めていきます。
動き始めた時間が、山崎先生の上で止まっています。
思わず知らず、壇上を見つめ、身体が前のめりになります。
ようやく、初手の▲26歩が指されました。
持ち時間は短いけれども、山崎ファンにとっては、長い戦いが始まりました。
解説の北浜七段は、おっとりした口調です。
聞き手の環那さんは、小気味よくはきはきとして、好対照ですが、息はぴったりです。
北「山崎さんが、先手を持って一手損角換わりを受けるのは、珍しいですね。」
その山崎先生が、▲36歩から▲37銀(13手目)と早繰り銀を見せれば、谷川九段は、△42飛と回ります(20手目)。
北「早繰り銀には、この42飛で受けることが多いですね。」
わかりやすい北浜七段の解説が続きます。
開始から26手目あたりまで、山崎先生は、背筋を伸ばしたまま、姿勢が変わりません。
すごい集中力だと感じました。

環那さんは、とても勉強家で、対局者の対戦成績も調べています。
山崎七段対北浜七段の対戦成績までも調べ上げていて、北浜七段もビックリです。
ただ、25手目までが、棋聖戦第3局と同型になったのには気がつかなかったようです。
北「あれっ、覚えていませんか?一緒に現地にいたでしょう?」
ここは、北浜七段が一本取りました。
環「今、思い出しました。はっきりと覚えています。」
この後、先手(羽生棋聖)は銀冠に組みますが、後手(深浦挑戦者)のうまい構想に、守勢一方になりました。
ところが、山崎先生は▲68金(27手目)。
すかさず北浜七段が反応します。
北「これは、山崎さんらしい独創的な手ですね。」
囲いを最短にして、攻めて行こうという積極的な山崎流の作戦であることを、一生懸命に説明される北浜七段でしたが、舞台の下からデレクターさんの合図!
どうやら、次の一手をしてほしい時間のようで、あと1分のボードが。
北浜七段、慌てた風もなく、
北「では、次に谷川先生が指されたら、封じ手にしましょうか。」
山崎先生に、封じ手が回って来ました。
この辺りから、身体を動かし、頬も膨らませて、動きの激しい山崎先生になりました。
首も振りながらしばし考え、大きく息を吐き出して、封じ手を考えています。
北「候補手は、▲96歩。これは一番自然だと思います。私ならこうですね。」
環「ほかの候補手はどうでしょう?」
北「あっ、山崎さん、もう、封じ手を書きましたか?
まだ?!まだなのに、候補手をしゃべっちゃまずいですよね。」
そりゃあ、そうです(笑)
やがて、封じ手の意思を示された山崎先生は、誰からも見えないように、背中を向けて封じ手を書き始めました。
ほとんどの棋士の方は、そのままの姿勢で書かれるのですが、山崎先生は真面目なんだなぁと思いました。


そして、封じ手が終わるのを待って、他に▲77桂、▲37桂、▲16歩が示されました。
「山崎先生なら、攻めの▲37桂。」とは、しいのみさんとひーちゃんさんの意見です。
僕は、北浜七段のこの一手の▲96歩に賭けてみました。
結果は、▲37桂が正解手。
さすがにたこやきメートですね。
僕は、解説者を信じすぎました。。。
再開後から、お得意のたこやきポーズも飛び出して、ますます盤上没我の風情です。
40手目あたりから、話題は、10年前の新人王戦に。
平成12年度は、山崎先生と北浜七段が新人王を争って、山崎先生が2連勝しています。
北「山崎さんはですね、対局前に、一点を睨んでいるんですよ。鋭い目で。
その迫力に押されて、私はボロボロに負けました。
山崎新人王(誕生)に、貢献しました。」
「今思えば、睨んでいたわけではなくて、山崎さんは、ただ、気合を込めていたんですよ。
それに気が付いていれば、ボロボロにはならなかったのに。」
北浜七段も笑わせてくれます。

舞台に登場する時も、退場する時も深々と客席に一礼される山崎先生です。
お客様を大切にされる態度には、とても好感が持てます。
封じ手休憩の後も、壇上に登場して一礼をされましたが、その時の目線が僕たちに向いていたような気がしました。
「今、山崎先生と目が合いましたよね?」
「ええ。で、『ありがとうございます』って、おっしゃいました。」
しいのみさんと間違いないことを確認しました。
そして、来場を感謝してもらえました。
うーん、応援団冥利に尽きます。
僕たちの眞後ろにひーちゃんさんたちもいますから、同じように目線が合ったことでしょう。
『山崎先生、余裕があるのかな?』と思う反面、『まさか、勝てなかった時のことを考えて、舞台上からの挨拶・・・?』と不安に思ったり・・・。
ちょっとした山崎先生の仕草にも、いろいろと考えてしまう僕でしたが、応援団が不吉なことを考えてはいけません。
『そう。余裕があるのだ!』
しかし、局面は、後手の押さえ込みに、なかなか先手から手を出しにくい展開になりました。
さらに後手は、△22玉〜△31玉〜△22玉の手待ちです。
環「これは、飛車を下がれば、千日手ですか?」
北「そうは、ならないでしょう。」
環「じゃあ、私は千日手に1票。」
北「では、私は、ならない方に1票。」
大盤解説は楽しそうですが、山崎先生は、考慮時間を小刻みに使って、苦しそうな表情です。
『やはり、千日手か?』と思いかけた時に、▲55歩と思いきって打開されました。
北「まあ、こういうものです。」
棋士の本能として、『自分が初手からやってきた作戦が、間違っていたとは認めたくない。』と思うものと聞いたことがあります。
北浜七段もきっと山崎先生が打開すると信じていたのでしょう。
ただ、後手の角を5五に呼ぶので、思い切った決断でした。
案の定、桂馬が交換になった後、後手の角に9九の香車を取られました。
さらに、玉の近くに馬ができています。
『後手の方が優勢なのでは・・・?』
つたない棋力でも、そう見えます。
『あー、いかんいかん。応援団が弱気になっては!』
しかし、不安は、馬ができただけではありません。
後手の飛車が直通で、8二の位置で大きな顔をしています。
『このままでは、上下から攻めつぶされそう。』
少しでも将棋が分かる人なら、絶対にそう思うでしょう。
客席のたこやきメート一同、胸が苦しい時間帯の始まりでした。

ここで、3筋の銀を吊り上げ、▲8三歩と飛車の頭を叩かれた手が、当然とはいえ良い手でした。
△同飛は、角打ちで飛車銀の両取りがあるため、後手はやむなく△9二飛です。
これで後手の攻めが緩和されて、客席の応援団もちょっと一息できます。
しかし、先手の山崎先生としてはゆっくりとはできません。
十字飛車で▲3四飛と銀を取りますが、△3三香で飛車が助かりません。
それに対して▲4四角!が思い切った手でした。
△3四香と取れば、角で王が取れますから、後手はすぐには飛車が取れません。
そうかと言って、ほっておけば、後手は9九の馬が取られてしまいます。
しかし、皆さん、ここまで並べてみて下さい。
飛車と角がくっついて、すぐにも取られてしまいそうな不安定さは、ホントに心臓に悪い形です。
北「ここは、こう(△6六歩)やりたいですね。」
大盤ですぐに示された手は、後手にとって好手な予感です。
すかさず△6六歩が指されました。
山崎先生は、▲8八銀打で馬を召し取りに出ましたが、△6七歩成から相当に攻めつけられそうです。
北「後手は、(飛車と角の)どちらかが取り切れたら、勝ちでしょうね。」
△4三銀と引かれ、飛角のどちらかが取られることが確定です。
『しかし、こういう危なげな将棋は、山崎先生はお得意だから。』
無理にも自分を納得させて、壇上の山崎先生を見つめます。
『山崎先生、何か手がありますよね?』
いよいよ△6七歩成から、谷川九段の猛攻が始まりました。
6三にいた金を△5四金と上がって、攻撃に役立てて来ます。
大盤の解説は、ずっと後手持ちです。
このままではじり貧と見て、山崎先生は飛車を切り、▲3四歩と攻め合いに出ます。
しかし、△8七歩と玉頭をたたかれてからは、玉の逃げ方を間違えると、即、負けになるという危ない局面が続きます。
しかも秒読み・・・。
『しいのみさんもハラハラされているだろうな。』
と思うのですが、緊迫した場面の連続で、一言も話せません。
北「先手は、これ(3四の銀)を取る手が回ってくれば。」
その順が回ってくるのでしょうか?山崎先生は防戦一方です。
△4四角と据えられ、山崎先生の玉が角のラインに入り、さらに苦しくなったような感じでした。
山崎先生は、▲7七香と打ってギリギリの凌ぎです。
そして、一手のすきをついて▲2六桂!の勝負手が飛び出しました。
北「あっ、これは、私は思いつきませんでした。香車ではなくて、桂で(銀を)取るのですか。」
おっ、これなら▲3四桂が王手になります!
いわゆる「後手玉が見えて」来ました。
ただ、山崎先生に、後手玉を攻める順番が回って来るかどうか・・・。
客席で祈るだけです。いったん▲3四桂と王手をして、また、受けに回る山崎先生です。
北「ここ(2一)にこれ(香車)でも(打つと)、(後手玉が)見えなくなりますね。」
『あー!北浜七段、よけいなことを。』
先手から詰ませに行くには、2一か2二に駒を打てなければなりません。
それを消されたら、山崎先生が苦しくなるじゃないですか。
『いやいや、某K先生ならいざ知らず、谷川先生の棋風には合わないはず。』
そう思いながら見ていました。
やはり、谷川九段は、角の利きを生かして、執拗に山崎玉のこびんを攻めます。
何度も手筋の歩を打たれ、山崎玉の守りが薄くなってきました。
北「これ(金)がここ(6五で歩の頭)に来ますね。」
それは、何か”決め手”っぽいではありませんか。
後手の指した手は、やはり△6五金でした。
客席で、「観念した」瞬間でもありました。


山崎先生は、銀を引いて、必至の防戦です。
香車を打たれ、飛車を打たれ、何とか右辺へ逃れようとする山崎玉です。
後手の手駒は少なくなりましたが、4四の角が1七に成れるので、挟撃体制にはなります。
右辺へも逃げられないかもしれません。
と、山崎先生の手が後手陣に伸びて、▲4一銀。
『形作り??』
と思いながら山崎先生の表情を伺うと、決して諦めている感じではありません。
そう、山崎先生は、結構、優劣が顔に出るタイプなのです。
『あっ、これはもしかして、ひっくり返ってる??』
いよいよ、山崎玉は受けのない形になりました。
▲2一銀と打って、山崎先生は、後手玉を詰ましにいくしかありません。
僕の棋力では、詰みは分かりません。
山崎先生と谷川九段の表情を交互に見ながら、手順を追います。
パタパタと手が進んでいきます。
環「指し手が早いですね。」
北「詰みを読み切っているのでしょうかね。」
環「それとも、ただ早いだけなのか?」
この緊迫した局面で、会場の笑いを取る環那さんはすごいですね。
何と、壇上の山崎先生までも苦笑しています。
▲6二飛まで進み、詰み手順を一生懸命考えていると、谷川九段が投了されました。
「あっ、終わった。」
小さな声でしたが、安堵の言葉が、思わず僕の口をつきました。
『山崎先生の勝ち!!!』
いやいや、しいのみさん、よかったですね〜☆


詰め将棋の大家である北浜七段は、詰みが分かっていたようです。
北「飛車を6二に打ったのは、意味があるんですよ。」
大盤での詰め手順の披露で、後手玉が6筋へ逃げようとするのを阻止している手であることが分かりました。
指し手が早かったのは、山崎先生が詰みを読み切っていたからでした。

大盤での感想戦が始まりました。
谷「3四角が、攻防に利くと思ったんですが、意外にたいしたことなかったですねぇ。」
そういうものですか。
素人目には、もの凄く利いているように見えましたけど。
北浜七段が、▲2六桂の勝負手にも触れます。
山「それしかなかったです。3四桂となって、詰みに必要な駒を考えればよくなりましたから。」
ここで、形勢は揺らいだようです。
谷「最後は、(5七の地点で)金まで渡して、お手伝いしてしまいました。」
谷川九段、苦笑いです。
”2一に駒を埋めたら?”という話は、出ませんでした。
個人的には、聞きたかったんですが。

そして、表彰式。
岡山大会では表情が硬かった山崎先生も、今日は、勝利を満喫してか、満面の笑みです。
客席から、手が痛くなるほど拍手して、山崎先生の勝利を讃えました。
狙いの揮毫入り将棋盤は、今回も他人様の手に渡りました。
持っている数字、かすりもしませんでした。
次への抱負は、「強敵ですけど、頑張ります!」と。
郷田九段には、やられっ放しなので、ここで一矢報いてほしいものです。
ようやく、しいのみさんとも声を交わせます。
「最終盤は、山崎先生の顔ばかり見ていましたよ。」
「私もそうです。」
「山崎先生は、諦めていませんでしたよね。」



山崎先生が控室に去られた後、たこやきメート集合です。
「ドキドキしましたよね。」で一致。
そして、皆、笑顔、笑顔。


握手は、もちろん最後の方に並びます。
終わった後、少しでも長く、山崎先生と同じ空気の中にいたくって。
山崎先生は、額にびっしりと玉の汗。
笑顔で、ひとりひとりと握手していらっしゃいます。
「おめでとうございます。」
と固く握手しました。
あと、何を言ったっけ・・・?(笑)

すべてのファンと握手が終わって、ようやくおしぼりで汗を拭かれる山崎先生。
和服の肩のあたりには、汗のシミがいくつも出来ていました。
「対局は、たいへんだったのね。」
強いライトも当たっているので、空調に効いた会場とはいえ、壇上は相当に暑かったことでしょう。
それでも、滴る汗も気に留めず、しっかりとファンサービスをされた山崎先生に、また、惚れ直す応援団です。
囲碁将棋チャンネルの収録は、翌日のはず。
「今日が勝ちだったので、いい顔が出来ますね。」
と声を掛けると、
「そうですね。」
と笑顔が返って来ました。

   

控室に戻られる山崎先生の後ろ姿をしばし見送って、たこやきメートも会場を後にしました。
皆さんと余韻を楽しみたかったのですが、僕は、中学校の同窓生と約束が合ったので、お先に失礼しました。
『ああ、静岡に来て、よかった☆』
ものすごく好きな県になりました(笑) 

−完−