2013年 JT杯将棋日本シリーズ 熊本大会 (2013.6.15) (ドクター尼子)

日帰りは無理だった熊本に、九州新幹線が通り、片道2時間半!
何と、岡山から東京よりも近くなっちゃいました。
『山崎先生の晴れ舞台、行くしかない!!』
仕事を休み、家内の理解も得て、熊本へGOです。

博多を過ぎると、車内アナウンスが4ヶ国語に。
韓国語と中国語が加わるんですね。
『九州なんや。』
と、つまらないことで感動しました(笑)
さて、いよいよ熊本駅着。
ここで、空港行きバスに乗り換えるのですが、1番停車場が分からなくてウロウロ。
観光案内で聞き、分かった時には、乗り換え予定のバスが出た後でした。
バス停で25分待ち・・・。
前の列を目指して来た者にとっては、致命的なロスです。
しかも、雨のせいか、バスが遅れます。
案の定、会場の列に並んだ時には、最初の40人が入場している所でした。
西瓜さんから、
「来てはります?もう並んでますよ。」
のメール。
完全に後れを取ってしまいました。

第2グループで入場。
『対局者の表情は判別できるな〜。』
ぐらいの位置で着席。
席が決まったら、トイレと腹ごしらえと思い、ロビーへ出ました。
おにぎりを一口ほおばったところへ、
「では、対局者のお二人からメッセージをいただきます。」
の声が会場から聞こえました。
『ヤバイ!見逃す。』
あわてておにぎりをコンビニの袋にほうり込み、会場へ取って返します。
おお、スーツ姿も凛々しい山崎先生が壇上に!

佐藤九段の挨拶の間、ステージから客席を見渡すのが山崎先生のスタイルです。
『立ち見の方が、ステージから見つけやすいかな?』
そう思って、観覧席の後ろから、山崎先生を見つめました。
たこやきメイトが熊本へ応援に行くことは、連絡してありましたから。
何となく、肯かれたような感じ。
勝手に、見つけてもらったと思いました(笑)

山崎先生の挨拶が始まります。
きりりと引き締まった表情には、緊張も感じます。
笑顔はなく、一言一言、紡ぎだしていくような話し方です。
今ここで、壇上で、頭に浮かんできた感情を、素直に言葉に綴っている印象でした。

「ここ熊本へは、昨年、解説者として来ました。
その時から、対局者として来ることが目標だったので、嬉しく思っています。

このあと、対局をするので、緊張をしてきました。
対局前の緊張と不安、それは、この会場の子供たちもプロ棋士も、同じです。

今日、対局する佐藤康光さんは、実は、実績から実力から何から、すべて僕より上です。
対戦成績も1勝8敗で、この10年、勝ったことがありません。
しかも、棋譜を見返すと、いつも大差で負けていました。
どこかに
『今日も負けるかも・・・』
と、戦う前から、弱気になっていたのではないかと思いました。

どこでも、自分より強い子がいます。
誰もが、ずっと勝ち続けることは、出来ません。
ただ、戦う前から、勝ちを諦めないで欲しいと思います。

この会場の子供たちの中にも、初めから諦めている子もいました。
でも、『今度は勝つ』、『今日は勝つ』と言う気持ちで将棋を指して欲しいと思います。

僕も、
『今日は、勝つ!』
と言う気持ちで、良い将棋を指すように頑張ります。」

山崎先生の挨拶は、真摯に子供たちに向き合う言葉でした。
そして、自らを鼓舞する言葉だったと思いました。

胸が、ちょっぴり熱くなりました・・・。

挨拶が終わるや、すぐにロビーへ出て、おにぎりを食べました。
低学年の決勝、高学年の決勝、プロ対局の流れの中に、休憩はありませんから。

西瓜さんを捜す間もなく、対局開始です。
メールで、お互いの場所を確認。
おっ、西瓜さん、2列目のいい位置にいるようです。
その位置なら、壇上からでも見分けがついたことでしょう。
山崎先生の肯きは、それだったのかも。

どちらの決勝にも、女子が残っていました。
そして、高学年の部は、女子が優勝しました。
僕の記憶では、初めてだと思います。
ただ、山崎先生のことが気になり、どんな将棋だったのか、覚えていません(笑)

さて、いよいよプロ対局です。
山崎先生、鶯色の羽織で登場です。
うーん、かっこいい♪

うっかり棋譜用紙を忘れてきたので、メモが取れません。
佐藤九段の挨拶は、聞かないようにして、山崎先生の挨拶に傾注しました。

「対局を、とても楽しみにして来ました。
 未熟なので、心臓がドキドキしています。
 でも、良い緊張感です。
 盤の前に座れば、集中出来ると思います。

 ここまで来たら、戦うしかありません。

 勝つためにここへ来ました。
 勝つために集中して頑張ります。」

そんな言葉だったと思います。
山崎先生にしては、強い言葉でした。
『勝って欲しい。』
心から思い、祈り、勝利を信じました。

解説は、森下九段です。

「先ほどの山崎さんの話を聞いて、私、胸にぐっとくるものがありまして、
涙が出そうになりました。
 と言いますのは、私も、佐藤さんに10連敗をしたことがあるんです。
 ちょうど羽生世代が台頭してきた頃で、勝てる気が全然しませんでした。
 『鍛え方が違うから仕方がない。』
と思ったりもしたものです。
 その頃を思い出しましたね。」

「こういう場で解説をする時には、一方に肩入れしないように気をつけます。
 つい、世代の近い方に、今日だったら佐藤さんですが、よく知っているし、
肩入れしそうになります。
 しかし、先ほどの話を聞いたので、今日は、山崎さんに肩入れしそうです。
 山崎さんに肩入れしないように、公平に解説したいと思います。」

『いやいや、森下先生、是非、山崎先生に肩入れして下さ〜い。』
と思うたこやきメイトです。

「22〜3歳の頃は、やれば必ず勝てるという気がしたものです。
 勝負ですから、負けることもありましたが、戦う前には勝った気でいました。
 それが、27〜8歳になると、まったく勝てる気がしなくなりました。
 もちろん、勝つこともあるんですが、戦う前から負けそうな気がしているのは、
将棋の本筋ではないんですね。」

思ったことを正直に、飾ることなく語られる、森下先生らしいお話です。

「佐藤さんは、43歳になられたと思いますけれども、今でも鍛錬を怠らず、
新戦法も考え出して、勝ち続けていることは、凄いことだと思います。」

その佐藤九段の四手目が、△3ニ銀!

「いや、ここに銀を上がったのは、始めて見ました。
 普通は、2二か4二へ銀を上がりますよ。
 うーん、これはどういう意味でしょうか?」

しかし、六手目は、△3三銀。

「ここに上がるなら、2二でも4二でも、同じでしたね(笑)」

聞き手は、山田久美女流三段。
出しゃばらず、控えめで、解説者の話を引き出していく感じです。

将棋は、佐藤九段のダイレクト向かい飛車。
山崎先生が、▲6五角と打つ将棋になりました。
「ここで△7四角と打つのが、佐藤さんの発見した手です。」
定跡化した手順を、森下九段が丁寧に解説されます。
「お二人とも、創造的な手を指されますね。」

ここで、山田女流、気を使われます。
「横歩取りには『山崎流』というのがあります。
 森下先生も、『森下システム』がありますが、ご自分の名前がつくのは、
嬉しいものですか?」

「いやあ、お恥ずかしい。
 あれは、自分が編み出したわけではなくて、先輩の指し方が良かったのを
自分で整理しただけです。」
「でも、それまで誰も整理されなかったわけですから。」
「いやいや。」
謙虚な森下九段です。

「私が、本当にすごいと思ったのは、藤井システムです。
 あれは、完全に藤井九段のオリジナルですからね。
 居玉のまま戦うという、将棋の歴史を変えた戦法です。」

その間に、将棋は、どんどん激しくなっていきます。
26手目の△5四角を見て、
「そろそろ、封じ手の時間ですね。」
と森下九段。
「(△2七金と)打たれたら、将棋は終わってしまいます。」
解説を続けながら、
「次に、佐藤さんが指したら、山崎さんに封じ手もらいましょう。」
山崎先生、解説通りに▲3五歩。
そして、佐藤九段の手が伸びて、△2五歩!
「おお、行きましたね。
 しかし、先ほど封じ手と言いましたが、これでは・・・。」
100%、▲同歩なので、封じ手になりませんよね〜(笑)
山崎先生も、さっと同歩を指しました。
ここで、佐藤九段は、△3五角。
ようやく、森下九段の想定した手が来て、封じ手です。

封じ手の候補は、三択。
「一番、普通なのは、▲4七銀と軽く捌く手。
 固めて勝ち易いとする現代的な手は、▲4九銀。
 激しく行くなら、▲3六歩も考えられます。」

司会者が、客席に聞いて回ると、
「▲2六飛。」
という答えが出ました。
「うーん、その手は、△2八歩という手があるんです。
 それを上回る返し技がないとちょっと、ね。」
否定的な森下九段でしたが、候補手に加えられました。

山崎先生の将棋は、銀が前に出ていく将棋です。
なので、▲5九銀はないでしょう。
▲3六歩は、激し過ぎて自信なし。
▲2六飛と悩んで、▲4七銀を選びました。

ここで、ようやく西瓜さんとご対面。
「私より遅いだなんて。」
「いや、熊本の駅前で迷っちゃって・・・。」
「山崎先生、すごく緊張してはりましたね。」
「しかし、あの挨拶には感動しました。」
「ほんまですよぉ。良かったぁ。」
「封じ手は?僕は、4七銀にしました。」
「私と違いますね。」
わずかの時間に喋りまくり。
たこやきメイトはいいものです。

再開後、封じ手は、▲4七銀。
久しぶりの正解でした。

進んで、35手目は▲1六角。
この手を、森下九段が気にかけていました。
「この角は、敵陣を睨んでいますが、一方だけで、狙いが単純です。
 佐藤さんの角は、”八方睨みの角”で、敵陣にも自陣にも利いています。
 この差がどう出るか・・・。」

37手目の解説。
「ここは、派手な手が出るかもしれません。」
歩頭に▲3六銀と出る手が、いかにも決め手風です。
山崎先生、見せ場とばかり▲3六銀!
これで、決まっていれば、かっこいいのですが・・・。

そして、問題の47手目がやってきます。
「▲4二飛成とすると、その後、▲4八飛が角銀両取りです。
 筋は、△4七歩ですが、筋悪く△4七金とされると、▲3七飛に△同金。
 飛車を取られては、先手が持たないですね。
 ですから、ここで飛車を切るようでは、ちょっと・・・。」
もちろん、対局者に聞こえていますから、「ここ」「こう」「これ」などと
指示語だらけです。

その解説が終わった直後に、▲4二飛成と・・・。
「これは、解説したとおりに進みますよ。金、でねぇ。」
案の定、△4七金が飛んで来ました。
山崎先生、苦肉の策で▲同金。
「これは、我慢しましたねぇ。」
と、唸る森下九段でしたが・・・。 

数手後には、飛車を閉じ込められます。
そして、と金、馬、飛車が、山崎玉に迫ります。
あやを求めて▲5二金と打ちますが、駒が足りません。
最後は、大差になってしまいました・・・。
「負けました。」
はっきりと聞こえる大きな声で、頭を下げられた山崎先生。
”悔しくても、最後まで礼儀正しく”
と、子供たちに教えているようでした。

感想戦が始まります。
封じ手の辺り、
「▲2六飛と迷ったんですけど。」
と山崎先生。
「そうですか!△2八歩には?」
「▲4六歩が利くと思いました。」
△3四角なら、金打ちがなくなり▲2八飛です。
「△5四角なら?」
「▲2四歩と突いていいかと。」
「なるほど。」
と、大盤に並べて、感心する森下九段。
やおら、開場に向かって、
「封じ手で▲2六飛と言われた方、正解でした。
 いやあ、お強いですね。参りました。」
どこまでも律儀で、爽やかな森下九段です。

「▲5九銀は?」
「一秒も考えませんでした。」
「堅さで勝負という現代的な手ですが、攻めが細いですか。」
「いや、確かに堅いですね。そうして勝つのか・・・。
 でも、実戦的には、▲4七銀で勝ち易いと思いました。
 ここで、絶対に良い手があるはずなんですが・・・。」
”見つけられず、悔しい”という気持ちの出た山崎先生が印象的でした。

そして、△4七金の場面へ。
「この手が見えてなくって。
 森下先生が”金”と言われたのを聞いて、青ざめました。」
とぼやく山崎先生です。
「私、これ、解説しましたよね?
 筋なら歩ですが、金は筋悪ですから。」
「そうですか?
 私には、すぐ金が見えましたけど。」
間髪を入れず、佐藤九段が喰いつきます。
「筋の悪い手ばかりで、すみませんね。」
どっと会場の笑いを誘いました。

「△3八角には▲4六飛と浮いて有力ですか。」
と、大盤に戻る山崎先生です。
 森下九段も賛同して、あれこれと検討し、
「これなら、まだまだの将棋でしたね。」
ということになりました。
しかし、勝てると思って激しく踏み込んだ山崎先生です。
仕方ないですよね。

閉会後、
「残念でしたね。」
西瓜さんと慰め合いました。
ところで、僕、封じ手クイズが当選しました。
「あ、いいなぁ。」
と西瓜さん。
たこやきメイトって、割と抽選で当たるんです。
いつも見ていただけだったので、ちょっといい気分でした。

「勝利者を讃えて、握手をしていきましょうか?」
二人で、握手会の列の最後尾へ並びます。
「歴代竜王を三人倒して、決勝へ行く筋書きだったのに。」
「ああ、そう言えばそうですね。」
しかし、握手会の先には、佐藤九段。
「おめでとうございます。」
軽く握手をして、通り過ぎました。

ああ、これで、今年の山崎先生のJT杯は、終わりです。

「西瓜さん、この後の予定は?」
「どこかでお茶でもできればいいですけどね。」
「そうですね。」
と、話しながら会場を出ました。
「あっ、先生だ!」
『ん?先生って?』
西瓜さんの視線の先へ振り向くと、そこには何と!
「山崎先生・・・!?」

そこには、紛れもなくスーツ姿の山崎先生が!
「いやぁ、なかなか見つからなくって。」
敗戦の後だと言うのに、爽やかな笑顔を浮かべて下さっています。
「山崎先生、残念でしたね。」
「いやぁ、折角、来ていただいたのに、申し訳ないです。」
それだけのために、ロビーへ出て来て下さるとは!!
「でも、先生、出て来ても構わなかったんですか?」
と西瓜さん。
「ええ。担当の方に聞いたら、”大丈夫です”って。
 佐藤先生の握手会も終わったんで、いいんでしょう。」
僕たち二人とアマリリス支部と思しき女性二人。
山崎先生と話しを始めたら、帰りかけていたファンが気がつきました。

即席の撮影会が始まりました。
少年ファンが、はにかみながら山崎先生とツーショット。
「山崎先生、私たちのために出て来られたんですよね?」
まだ、半信半疑の西瓜さん。
「そうですよ。優しい先生ですよね〜。」
「あっ、あの女性、私の隣で見ていた人ですよ。」
若い女の人が、すごく嬉しそうに、写真を撮り、握手までしています。
「僕たち、熊本の山崎ファンの方々に、貢献しましたね。」
「そうかも(笑)」

20数名のファンの後、僕たち四人も、写真を撮りました。
「余分なお仕事をさせましたね、先生。」
「いや、そんなことないです。」
と、山崎先生、ますます素敵な笑顔です。
お客さんのいなくなったロビーで、お話しができました。
翌日の西遊棋のことが中心でした。

やがて、谷川会長を始め、出演棋士の皆様が登場。
「じゃあ、もう、時間がありませんので。」
と、山崎先生も合流されました。
「お気をつけて。」
でも、僕以外の三人は、帰りの飛行機も同じだそうです。
うらやますぃ・・・。

西瓜さんに見送られて、バスで熊本駅に向かいました。
バスに揺られていると、西瓜さんから、
「目の前で、棋士の先生方が、お土産を買われています。
 不思議な感じです。」
と、メールが届きました。

山崎先生の優しいサプライズで、心の満たされた熊本大会でした。 (完)